酒、酒、出発

2009.06.04

六月二日、出発の前々日。本来であれば出発に向けての準備に追われ、特別な事などはすべきでないのだろうが、勿論そう単純に事が進む筈も無く、一切の荷造りをしないまま一日を終えることとなった。無論下準備として必要な物を買い揃える事を忘れる程の阿呆ではないのだが、世間一般的に言われる「用意の良い」人間は無いので、仕方は無い。

では、何をしていたのか。何をしていたかと問われれば何もしていないのだが、敢えて書くならば「寝ていた」「酒を呑んだ」と答える外無い。まず起床時間が酷く遅かった。その所為で取り急ぎ必要な物を買い揃え、左耳に穴を開けた時にはもう日が暮れだしていて、その後は明け方まで酒を呑んでいた事になる。我ながら準備として必要なことを殆ど放棄していたのには、呆れるしかない。

明け方まで酒を呑み、ぐでんぐでんの状態で家に帰り、一切寝ていないにも関わらず妙に目が冴えて居たので、仕方なく荷造りを始めた。鞄の中に取り敢えず寝袋を詰め込み、ふむ、何を入れるべきかさっぱり分からない、と首を傾げた侭数秒。ウッ、と急に吐き気を催し、便所へと駆け込む駄目人間一人。呑みすぎである。仕方が無いので胃薬を飲むのだが、今一良くならない。然し其れは至極当然のことである。何しろ胃薬は二日酔いには効いても、唯の酔っ払いには効かないのだ。ふらふらとした足取りで着替えやら何やらを掻き集めて、鞄へと詰め込んでいく。困った、下着が足りない、等と呟きながら。

そして一時間程荷造りをしていると、急激な眠気に襲われたので、眠ることにした。

とっくに日付は変わっているが、六月三日。目が覚めると時刻は十五時過ぎ。途中で何度か目覚めた気がするが、覚えていたのは夢だけだった。昔通っていた中学校で、クラスが見える。教室へ入るのだが、自分のクラスかどうか今一自信が無い。クラスメイトにこの教室で合っているかどうかを聞いたのだが、答えを教えてもらう前に目覚めてしまった。教室に半数程しか生徒が居なかった。あの教室はもう無いのかと思うと、少しノスタルジックな気分になる。

目が覚めてから、取り敢えずシャワーを浴びて、荷造りの続きに取り掛かる。相変わらず何を持って行けば良いのか分からない。結果、寝袋と、数日分の着替えと、洗面用具、タオル二枚、冬になってから着る薄手だが暖かいセーター一枚に、ジャケット一着、そんな所だろうか。あとはデジカメやパソコンの充電器やら、何となくトランプとか、それぐらいである。空港で荷物を預けたとき、重さは10kg丁度だった。背負って旅をする分には、特に困らない程度の重さだろう。きっと忘れ物が山のように有るのだろうが、まぁ大丈夫。きっと。

夜、十九時頃に友人が家を訪ねて来る。美容院で働いている彼に、髪を切って貰うのだ。彼が専門学校生だった頃から切って貰っているので、もう何年になるのだろうか。お蔭で僕自身は一度も美容院へ行っていない。最初で最後に行ったのは、中学の頃だった。それ以来は、自分で切るか、其の友人に切って貰っている。代金は、時々現金で幾らか渡すか。食事を奢って済ませている。然し、今回は一銭も渡すことは出来ない。何しろ金が無いのだ。帰ってきたら、何か旨い飯でも奢ることにしよう。

髪を切り、さっぱりとした後、また別の友人が家を訪ねてきた。少し酒を呑もうと言うことになり、外へ。とは言え余り遅くまで出ている訳にも行かないので、一時間程呑もうと言う事になった。過去に一度だけ行ったことのある、旨い日本酒が大量に置かれている店へと向かった。

店は二十四時で閉店だった。僕等がその店に入ったのは二十三時頃だったので、丁度一時間である。其の間に日本酒を二杯、肴に漬物、山芋短冊、出し巻きを食べた。暫く日本食はお預けである。最後に食べるものとして、申し分の無い味だった。日本酒は、実に旨い。

閉店まで店主とわいわい喋り倒して、店を出る。帰宅すると二十四時半頃。未だ準備は終わっていない。取り敢えず全ての荷物を詰めない事には出発出来ないので、必要であろう物を全て詰め込み、一応荷造りを終えた。其の時点で時刻は二時前。睡眠時間が削られては困るので、眠ることにした。使い慣れた携帯のアラームをセットして、眠る。予定起床時刻は六時半から七時だった。

朝、目が覚める。時計を見てみると、八時丁度だった。どういうことだ!と思いながら携帯電話を見てみると、時刻が二時になっている。どうやら電波時計を使っている所為で、解約した後時刻がずれてしまったらしい。盲点だった。どんなに急いでも出発の二時間前に着きそうは無いが、遅れれば遅れただけ自分の首を絞めることになる。大急ぎで取り敢えずシャワーを浴びて、荷物を背負って外へ。タクシーを拾い、京都駅まで向かう。

京都駅のJR窓口でお姉さんに「関空まで一番早いやつ!」と頼んでみると、十時十分着の電車のチケットを取ってくれた。出発は十一時五十分の便だったので、其れなら十分間に合う。ほっと一息付いた所でお茶を買い、ちびちび飲みつつ電車を待った。関空まで一時間十分程度。特急列車に乗り込む。どうせなので指定席にしてやった。

その後は時間内に手続きを済ませ、今飛行機の中でこれを書いている。相変わらず飛行機と言うのは退屈だ。外を見ても景色は中々変わろうとしないし、座席は窮屈。今回は幸いにして満席ではなく、隣の席は一つ空いている。三人掛けの窓際で、間に一つ空白が入る形だ。肘置きを上げて、広々と座ることが出来る。にしても、窮屈なのに代わりは無いが。いっそ其の隣まで誰も居なければ横になれるのだが、そうは上手く行かない物だ。

さて、到着したら取り敢えず、どうしようか。全く持って検討も着かないのだが、まぁ楽しくすごそうと思う。

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無意味な単語の羅列、夜、喉の渇き

2009.06.02

 日付をタイトルにするのはナンセンスかな、と思った。記号としての日付はとても便利な存在で、人間に於いてその時系列を顕すにはとても重要な位置を占める。しかし感覚的な記憶を辿る上では、些か頼りない物だな、と感じた。日付として記された地点に於いて、自分が何を考えていたか何てのは判り得ない。それなら無意味な単語の羅列を記した方が、その時の想いを辿り易くなるだろう。

 妙に喉が渇く。酒を呑み過ぎたのだろうか。眼球も乾く。目玉の表面が妙にざらついて、躯から水分が奪われてしまった様だ。モニターを長時間見つめている所為かも知れない。ドライアイ、と言う奴だろうか。酷く瞼が重いが、まさか眠いのだろうか。あれ程長時間眠って居たと云うのに。
 喉が渇いて仕方ないので、飲み物を取りに行く。一階へ降りて、居間へ。降りてきた序でに手洗いへ行き、その後顔も洗って、目のざらつきを少しでも落とそうとした。冷蔵庫を開けて、飲み物を出す。ここ最近は暖かい日が続くから、黒い蟲が出なければ良いな、と思いながらコップへ林檎ジュースを注いだ。冷蔵庫にパックを戻す時、足下に黒い影。いっ、と厭な声を出して、恐れの余り動きを止めてしまう。厭なら早く逃げれば良いのに、どうやら完全にトラウマとなってしまっているらしい。年々、自分が弱くなっていく気がする。
 一、二、三、四、五…。躯が硬直してから凡そ五秒。固まった後に解放される。最悪の気分の侭、部屋に戻り、コップに口を付けた。躯が水気を取り戻して往く。

 酒を呑んでから既に五時間ほど経とうとしている。少しだけ感じる吐き気は、酔いが醒めてアルコールだけが躯に残っているからだろうか。ぼんやりとした意識で、文字を吐き出していく。もう日付が変わって二日。出発は四日。準備は一切していない。適当に眠る事にして、明日目が覚めたら荷物を詰めだそう。昼過ぎには外に出て、左耳にピアスを開けよう。昔開けていた穴は、もう閉じてしまった。閉じてしまった場所に、綺麗にまた開けて欲しいのだけど、上手く行くんだろうか。ヨーロッパへは、小さな蜥蜴のピアスを付けていく事にした。ゲッコー。お気に入りである。

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2009/05/26

2009.05.26

先日、勤務中に対応したお客さんから本を貰った。結構前に接客して、其の時のお礼と言うことらしい。まぁ割と変わった人だったのだが、悪い人でも無さそうなので、素直に貰って置いた。30代の男性で、細身。フレームの細い眼鏡を掛けていた。女性的な物腰と、丁寧な口調。とは言っても男色とかそう言うのではなく、単純に人の良さそうな風貌。きっと普通の人から見れば変人なんだろうけど、僕はそう云った人でも普通に接するし、偏見は出来るだけ持たないようにしている。生きる上での基本的なスタンスは「否定しない」と言うこと。其の方が人生は楽しくなると信じている。

其の侭暫くの間、家には居なかったので放置していたのだが、今日ふと気が付いて、開けて見る事にした。大判のサイズで、どうやら写真集らしい。紙包みを破いて本を出す。中には、旅行と写真に纏わる本が入っていた。然しまぁ、特に友人と云う訳でも無いのに、どうしてこんな物を渡す気になったのだろうか。不思議だ。来月から海外へ行くと云っただろうか?いや、きっと何も云っては居ない。単純に、彼の趣味なのだろう。

結果的に見ると、結構良い本を手に入れた事になる。丁度旅立つ前であるし、旅の上での基本的なスタンスを読むことが出来たように思う。これ迄とは違う環境へ向かうのだから、色んな写真を撮ろうと思った。出来るだけファインダーを覗いて、写そう。空気を味わって、文章にしよう。出来るだけ多くの人と、文化と、芸術と、社会とをこの身で味わってこようと、そう思った。

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