九月一日、UK、入国審査、勾留、長い一日
朝、八時半頃に起き、朝食を採り、ホステルを出る。ブリュッセルの北駅まで地下鉄で向かい、長距離バス乗り場近くのバーガー屋で待つ事に。適当に日記でも書いていた。
時間になったので、バスに乗り込む。確か行きのバスは十四時半頃発だ。
バス内でぼんやりとすごし、国境を越え、一旦フランス国内へ。
夕方にフェリー乗り場に到着し、出国手続きを済ませる。其処までは問題無く、スムーズだった。
が、問題は其の後である。フランス領土を出る前にイギリスの入国審査が行われるのだが、其処で止められてしまった。入国審査局員の質問に答えていたら、急に「ちょっと其処に座って待ってて」と云われた。ん、なになに?と想いながら待っていると、暫くして「バスから荷物全部降ろして」と云われた。うひょ、マジで?と想いながら云われた通りに荷物を降ろした。因みにこの時座席にジャケットを置いたままにしていて、危うく唯一のジャケットを無くす所だった。隣に座っていた人が伝えてくれたのか、無事に確保。
何はともあれ僕を残したままバスは去っていく。他の乗客は無事入国、僕は入国管理に引っかかった、と云うわけだ。
三十分程、荷物と共にその場で座ったまま待つ。
先程の局員が現れ、よく判らない紙を渡される。内容としては「質問に対するちゃんとした答えを得られなかったので、詳しく聞く必要が有ります」的な事が書かれていた。ほうほう、左様ですか。と想いながら、もう暫く待つ。
漸く局員が現れ、別室に移された。荷物の検査を受け、危険物を持っていないかチェックされて、その後待合室的な場所に移される。因みに、此の時点で大した説明は受けていない。何がどうなるのやら、さっぱりである。
待合室にはベンチが並んでおり、全部で三十人強は座れるようになっていた。広さとしては、どれくらいだろう、十五畳程度だろうか。今一広さに関する感覚が無いので判らないのだが、恐らく4m*6m程度の広さだったように想う。壁には様々な国の言葉で、部屋に関する説明が書かれていた。写真はダメとか、食事は提供されますとか、質問が有ったら聞いて下さいとか、十ヶ国語以上で書かれていた。因みに日本語は手書きだった。
他に有ったのは正面にテレビが一台。僕が這入って暫くして、映画が流された。壁にはポスターがあって「不法入国はいけません!」的な。其の部屋から行くことが出来るのは、女性用トイレと男性用トイレのみだった。部屋の隅には大量の雑誌(ファッション系と、車系、男女用って事だろうか?)と、コーラン、聖書が置かれていた。後は電話が一台。一回だけ、無料で電話できるらしい。電話機の上には各種相談所の電話番号が書かれていた。
壁の片方は上半分がガラスになっていて、窓の向こう側には職員(入国管理とは別の組織になっているらしい)のスペースが見える。監視カメラは無かったのだが、人による監視が有る、と云う事だろう。人権のの配慮だろうか?
部屋の一番後ろ、ベンチの上には毛布が幾つか置かれていた。此処で何日も過ごす人間も、きっと居るのだろう。
そんな感じで始めは部屋の観察をしていた。何しろ中々這入れる場所ではない。正直、中々出来ないレアな経験をしているな、と想う反面、入国できなかったら如何しよう…、と云う不安も有った。何しろ這入れなかった場合、シェンゲン協定圏内に留まることになってしまう。其の場合、圏内に入れる九十日を限界まで使ってしまっている僕の場合、国外退去となる可能性が非常に高いのだ。一旦国外退去を食らった場合、その後其の国に這入るのはかなり難しいという話を聞いたことがあるので、其れだけは避けたかったのだ。
暫くして、職員が「お腹減ってない?」と訊いて来た。「減ってます!」と答え、サンドイッチとチョコレートケーキを貰う。飲料水もちゃんと提供されていたので、有り難く頂く。無料ご飯ですね!等と気楽に想える自分は、多分幸せなんだろうな、と想う。因みに訊かれたときは「無料で食事提供」と云う事を知らなかったので「え、くれるの?タダなの?好いの?」見たいな感じだった。
胃を満たし、部屋を観察するとする事が無くなってしまった。本でも読もうかと想ったのだが、雑誌は面白く無さそうだ。それにしてもまぁ、何時間くらい待つ事に為るのだろうか?職員さんは「今日は幸い君以外誰も居ないから、そんなに長くはかからないと想うよ」と云ってくれたのだが、実際彼等は働いている部署が違うので、具体的な事は何も知らないのだ。然しまぁ自分以外に誰も居ないというのは有り難い事実である。何しろ気が楽だし、手続きも早くなるのは必然だろう。
何はともあれ、考えていても仕方ない、取り敢えず映画でも見て待つ事にした。
そして待つ事二時間。映画を一本見終える。次の映画が暫くして始まったが、見る気に為れなかったので止めて置く。因みに少し不安だったのは最初の一時間で、其処からは「まぁ如何でも好いや」モードに這入っていたので気楽だった。ま、最悪でも死なないから好いよねー、的な。
その後はコーランを読んでみる。聖書は一部読んだが、コーランは一切読んだ事が無い。何が書かれているのやら、と想いながら読んでみたのだが、かなり難しい。何しろ英訳版なので、感覚的に掴み難いのだ。然も内容は至って退屈なので、気が付くと文字を追っているだけで読んでいなかったりする。
うむむ、此れは英語で読むにはちと難しすぎるな…、等と想いながら三十ページほど読み進めた所で、今度は入国管理局の人間に呼ばれた。
待合室を出て、再度荷物の検査を受ける。何が這入ってるかを適当に伝えながらチェックを受けた。実際、多分だが、僕が日本人じゃなかったら全部出して調べるんじゃないかなー、と想った。
その後は其の局員と一対一で話をする。と云うか、訊かれたことに対して答える、と云う形だ。尋問?尋問なのかな。とは云え、其の局員の女性は非常に感じの好い人だったので、リラックスして答える事が出来た。
聞かれた内容としては、イギリスを訪れる目的、今まで何処を旅行していたのか、家族は何人か、泊る場所は何処か、以前の仕事は何か、イギリスに友達は居るのか、親の経済的なサポートは受けられるのか、親の仕事は何か、金額として幾ら持ってきたのか、無くなったら如何するのか、等など。全てで三十程の質問だっただろうか。全部本当の事を伝える事にした。嘘は苦手だし、正直「日本からの観光客だから大丈夫だろう」と云う大前提の安心があった、と云うかまぁ、実際には安心しすぎていたのが問題なのだが。
質問に答えた後、女性が「では此れを上司に持って行って、判断して貰います。其れまで待っててね」的な感じでまた待合室に戻された。
待合室に戻り、恐らく三十分か一時間程してから、再度外に出される。
其処で云われたのは「純粋な観光客になってください。ボランティアでも働くのはダメですからね。」と云うこと。
そう、其れこそが問題発言だったのだ。正直な処、ボランティアに関してはやるかどうかも不確かで、まぁ出来るならやりたいなー、位だったのだが、質問の途中で「お金が無くなったら如何するつもりですか?」と云う事に対して「最悪親にお金を送って貰うか、出来るんだったらボランティアでもして過ごしたいですね」と云う事を云っていたのだ。まぁ、無知だからこそ出来ると云うか何と云うか。
何はともあれ、実に甘い感じで入国を許された様に想う。正直、止められる訳がないと踏んでいたので、要らぬ事まで云ってしまった、と云う訳だ。単純に「お金は十分に有ります。無くなっても親に云えば送ってくれます。仕事はしません。」と伝えていれば、止められる理由など何処にも無いのだ。
安心し過ぎているお蔭で、要らぬ事を云い、要らぬ時間を食う羽目になってしまった、と云う事だ。
その後は指紋を採られ、同意書にサインをして、待合室から出された。其の時点で時刻は確か二十二時過ぎだったか。勾留時間は六時間程である。
然しもう一つの問題が有った。EuroLineのバスが来るまで、待つ必要が有るのだ。一日に五本程有るとは云え、此の時間からだと夜行バスを待つ形になる。とは云え他に何か出来る訳でも無いので、大人しく待つ。因みに其処は寒くて、中の待合室に戻りたい…、と想った。何しろ暖かいし、映画は見れるし、サンドイッチはくれるし、紅茶は飲める。快適じゃないか!
等と如何でも好い事を考えながら、バスが来るまで待った。
待っている間に日付は変わり、深夜二時頃、漸くバスが到着する。荷物をバスに積み込み、漸く此れで入国できる!と想ったのも束の間、バスはすぐにフェリーに乗り込み、バスから降りて、フェリー内で一時間半程を過ごす形になった。
眠るにも眠る場所は無く、外は真っ暗なので眺めても詰まらない。窓の外に見えるのは、ただ真暗な闇と化した海と、星一つ見えない空だけだ。辛うじてフェリーから漏れた光が、白波を照らすばかりで、何の変化も無い、退屈な海の上だった。
腹が減ったので適当にサンドイッチと飲み物でも買おうと想ったのだが、通過がポンドに変わっていた。そうか、もうイギリスなのだな、と想い、船内の両替所である程度を換金する。サンドイッチと飲み物と、ポテトチップスがセットになって£4か£5だったように想う。ふーん、と想いながら購入して、好く考えたら円換算で八百円だということに気が付いた。高!
大体£3で五百円。£6で千円。全てが割高なのも判るという話だが、以前は£1当たり三百円近くだったことを考えると、余程安いのは確かだ。だが、依然として高い。
等と考えていると、フェリーは着岸したらしい。またバスに戻り、今度こそ寝れる…!と想い席に着くと、また五分程で外に出された。
何ですか、もう…。とげんなりしながらバスの外へ出て、荷物を出し、再度入国審査的な物を受ける。とは云え今度のは簡略的な物であり、パスポートを見せて軽くチェックして終わり、と云う感じだった。
ゲートの反対側へ進み、バスに乗り込み、気が付くと眠っていた。
