十一月九日、雲を抜ける、Aberdeen
朝、九時半頃に起き、朝食を済ませ、荷物を纏め、駅まで向う。
駅で三十分ほど電車を待ち、アバディーンへと向かった。
雲が降りてきているのか、それとも単なる霧なのか。
然し僕の目には、雲が降りてきているのだと想う方が自然に映った。
辺りは白く包まれ、何も見えない。遠くから林が現れても、見えるのは数本先の木々までだ。
・雲が降りて来ている。低くなりすぎた雲は地表に達し、霧の様に辺りを包み込んでいた。視界は閉ざされ、十メートル先が見える程だろうか。真白に包まれた先から、木々の姿が現れる。地表には淡い緑が見えるが、大きな霜が降り、辺りは一面真っ白になっていた。この、先の見えない空間に、一人で居る様を想い描く。
・静かだ、何の音もしない。まるであたり一面の白が音を吸い込んでしまったかの様に、何も聞こえない。視界に広がるのは、白いフィルターをかけた世界。遠くに、木の陰が見える。はるか遠くに有るように見えるが、意外と近くに有るのかも知れない。色の消えた、麦僊とした世界だった。
足許に目を遣る。草に霜が降りて、凍り付いた緑が微かに見える。辺りを見渡しても、自分の足跡が見当たらない。自分の立ち竦んでいる足許にだけ、霜の溶けて無くなった、黒ずんだ緑が見える。
自分は何処から来たのか。周囲を見ても、何も判りそうに無い。
酷く寒い。吐く息は白いのかも知れないが、辺りの色に溶けてしまって、何も見えない。
足を一歩、踏み出す。地面から伸びた氷の柱が砕かれて、乾いた音を出す。ザッ、ザッ、と音を立てる。僕はゆっくりと進んで行く。遠くに有るように見えた木々は、やはり其れ程遠くでは無かったらしい。すぐに姿を判然とさせ、其処に佇んでいた。木ノ葉は一枚も無く、この冷たい空気に身を晒した、幹と枝が伸びているばかりだ。
奥は森になっているのだろうか。幾つもの木々が先には見えた。だが、何処まで続いているのか、見当もつかない。辺りは依然として真白で、雲の中に居る様だった。
そんな事を書いている内、目的地に着いた。
ホステルまでは徒歩で向う。歩いて四十分程。チェックインを済ませ、荷物を残し、町へ。
取り敢えず美術館へ行ってみたのだが、月曜なので閉まっていた。
街を歩いて写真を撮る。
観光名所的な大きな建物だったのだが、ファサードを残して内部は全面改装を行っているらしい。古いだろうから仕方ないのだろうが、内部の建築を壊して立て替えてしまうのは、何だか勿体無いなぁ、と想う。
街の中心地近くには大きな公園が有ったのだが、流石に寒いので人が居なかった。
十六時頃ホステルに戻る。途中でスーパーにも寄り、食材を買う。
ホステルでは日記を書き、夜は一時頃に眠る。